労働災害を防ぐため、長年にわたり安全教育が実施されてきました。しかし、今なお事故は多く発生しています。厚生労働省の発表によると、令和7年の労働災害では死亡者数は過去最少となったものの700人が死亡し、休業4日以上の死傷者数は13万5,333人と依然として高い水準にあります。
労働災害は設備の故障だけでなく、人の判断や行動が原因となって発生するケースも少なくありません。事故を減らすためには、従来の安全教育を継続するだけでなく、教育内容や手法を見直し、より実効性の高い安全教育へと改善していく必要があります。
本記事では、労働災害を防ぐための効果的な安全教育のポイントを解説するとともに、ヒューマンエラーが発生する原因や、不安全行動・不安全状態との違いについても分かりやすく紹介します。
| ■この記事のポイント ①ヒューマンエラーが発生する仕組みがわかる ②労働災害につながる人間的要因がわかる ③ヒューマンエラーを防ぐ効果的な安全教育の方法がわかる |
安全教育(安全衛生教育)におけるヒューマンエラー
多くの労働災害は、勘違いや確認漏れ、作業のやり忘れなどのヒューマンエラーをきっかけに発生します。
まずは、ヒューマンエラーと不安全行動・不安全状態の基本を解説します。
安全教育とヒューマンエラー
ヒューマンエラーとは、人が意図せず誤った判断や行動をしてしまうことを指します。
過度の緊張、あるいは緊張感の低下、疲労などによって注意力や判断力が低下すると発生しやすくなります。
人間が作業を行う以上、ヒューマンエラーを完全になくすことはできません。
そのため、安全教育により、危険を正しく理解し、安全な行動を習慣化していくことが極めて重要です。
さらに、安全教育では知識を伝えるだけでなく、「なぜそのルールが必要なのか」を理解してもらうことも大切です。
また、働き方の多様化に伴い、高齢者や外国人労働者など、多様な人材に対応した教育も求められています。
危険を正しく認識し、自ら安全な行動を選択できるようになることで、ヒューマンエラーの発生リスクを減らすことにつながります。
ルールを守らない「不安全行動・不安全状態」
ヒューマンエラーが意図しない失敗であるのに対し、不安全行動とは、危険性を認識しながらルール違反や危険な行動を行うことです。
例えば、「面倒くさい」と安全帯を使用せずに高所作業を行ったり、「長年やっているから」と作業手順を省略したりする行為です。
一方、不安全状態とは、設備や機械の不具合、道具の劣化、作業環境の不備など、事故が発生しやすい環境や条件を指します。
労働災害の多くは、不安全状態と不安全行動が重なることで発生すると分析されており、どちらか一方でも改善することで事故の防止につながります。
労働災害発生シーケンスにおける「人間的要因」
労働災害は一つの原因だけで発生するものではありません。
人的要因や設備・管理上の問題が連鎖し、不安全行動や不安全状態を引き起こした結果、事故へとつながります。
ここでは、人間的要因が事故につながる仕組みを見ていきます。
心理的要因
心理的要因とは、作業者の心理状態によって判断や行動に影響が生じることです。
思い込みや過信、危機意識の低下、考え事による注意力の低下、ど忘れや無意識の行動などがヒューマンエラーにつながります。
また、「これくらいなら大丈夫」という油断から作業手順を省略するなど、不安全行動を招くケースも少なくありません。
慣れた作業ほど危険意識が薄れ、確認を省略してしまうこともあります。
こうした心理は、日常業務の中で誰にでも起こり得るため、継続的な安全教育による意識づけが重要です。
生理的要因
生理的要因とは、心身の健康状態が作業に影響を及ぼすことです。
疲労や睡眠不足、疾病や体調不良、アルコールの影響、加齢などによって判断力や集中力、反応速度が低下すると、ヒューマンエラーが発生しやすくなります。
特に昨今の猛暑では、熱中症による体調不良が判断力や集中力に影響を及ぼすこともあり、作業環境に応じた休憩や水分補給などの対策も重要です。
また、ストレスの蓄積も注意力の低下や判断ミスを招く要因の一つです。
十分な休養や健康管理、体調に応じた業務管理を行うことが、労働災害の防止につながります。
職場的要因
職場的要因とは、組織の体制や作業環境など、職場全体の環境を指します。
教育不足やコミュニケーション不足、リーダーシップの欠如、人員不足、作業手順の曖昧さなどは、作業者の判断や行動に影響を与え、ヒューマンエラーや不安全行動を引き起こす要因となります。
また、安全に関する情報が十分に共有されない職場では、過去のトラブルやヒヤリハットを再発防止に生かせず、同じミスを繰り返しかねません。
異常や危険に気づいても情報が共有されなければ、事故につながる可能性も高まります。
定期的なミーティングなどを通じて情報を共有し、組織全体で安全意識を高めることが重要です。
ヒューマンエラーを防ぐための安全教育とは
ヒューマンエラーを完全になくすことは難しいものの、KY活動(危険予知活動)をはじめとする安全教育を継続的に実施することで、発生リスクを減らせます。
KY活動(危険予知活動)
KY活動は、作業前に現場に潜む危険を洗い出し、事故を未然に防ぐための取り組みです。
ミーティングで作業内容や危険箇所、注意点を全員で確認し、危険を共有することで、安全意識を高めることができます。
特に、建設現場など作業内容や周囲の状況が日々変化する場合は、作業開始前に危険を予測する習慣を身につけることが、ヒューマンエラーの防止につながります。
また、KY活動は一度実施すれば終わりではありません。
作業内容や作業環境に合わせてKY活動の内容を見直し、継続的に取り組むことで、安全意識の定着につながります。
ヒヤリハット事例の蓄積・共有
事故には至らなくとも、日常業務では「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたりする場面が多くあります。
こうした事例を記録・共有し、原因や改善策を話し合うことで、同様のヒヤリハットや事故の再発防止につながります。
朝礼などで継続的に事例を共有することは、一人ひとりの注意力だけに頼るのではなく、集団の力で安全意識を高め、現場全体の安全管理を強化する上でも有効です。
作業手順の見直し・ルール徹底
ヒューマンエラーを防ぐには、安全な作業手順を標準化することが重要です。
役割分担を明確にする、危険な作業は一人で行わず複数人で実施するなど、マニュアルを整備し、現場でルールを徹底する必要があります。
また、危険箇所では互いに声を掛け合うなど、日頃からコミュニケーションを取りやすい環境づくりも欠かせません。
こうした取り組みは、ヒューマンエラーを個人の問題にせず、組織全体で防ぐ仕組みづくりにつながります。
体験型教育の導入
実際の危険を疑似体験できる体験型教育は、効果的な安全教育として注目されています。
危険な状況を安全に体験することで危険感受性を高められるほか、記憶にも残りやすく、危険を回避する行動につながりやすくなるというメリットがあります。
中でも、VRを活用した安全教育では、高所作業や転倒、巻き込まれ事故など、実際には体験できない危険を安全に疑似体験できます。
また、多言語対応や教育履歴の管理、ヒヤリハット事例の共有などにも活用できます。
特に、作業内容や作業環境が日々変化する建設現場では、マニュアルや座学だけでは伝えにくい危険を補う安全教育として効果的です。
まとめヒューマンエラー対策はVRの活用も効果的
ヒューマンエラーは、人の不注意だけでなく、不安全行動や不安全状態、心理的・生理的・職場的要因が複雑に重なって発生します。
そのため、安全教育では知識を伝えるだけでなく、危険を予測し、安全な行動を身に付けることが重要です。
近年注目されている、VRを活用した体験型教育は、実際の事故に近い状況を疑似体験できます。座学では伝わりにくい危険性を実感することで、危険感受性の向上につながります。従来の安全教育と組み合わせ、自社の業務内容に適した教育方法を取り入れることで、ヒューマンエラーによる労働災害の防止が期待できます。
労働災害を防ぐためには、一人ひとりの注意力だけに頼るのではなく、安全教育や職場環境、ルールづくりを組み合わせて継続的に改善していくことが重要です。
自社の業務内容や職場環境に合わせた教育を実施し、安全文化を定着させていきましょう。
| 題名 | 媒体名 | 著者・運営元名 | URL |
| 令和7年の労働災害発生状況 | 報道発表資料 | 厚生労働省 | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73382.html |
| 【第3章】第2節 労働災害はなぜ起きるのか? | 中央建設業特別教育協会 | 中央建設業特別教育協会 | https://www.tokubetu.or.jp/text_fullharness/part3/text_fullharness3_2.html |
| ヒューマンエラーを防ぐには? | 中央建設業特別教育協会 | 中央建設業特別教育協会 | https://www.tokubetu.or.jp/human_error/human_error04.html |
| 資料01_不安全行動 | 支給資料 | 支給資料 | https://drive.google.com/drive/folders/136oFBwHclWbIAAeA8hIf9z0brxZEcKv_ |
| 資料02_労働災害シーケンス | 支給資料 | 支給資料 | https://drive.google.com/drive/folders/136oFBwHclWbIAAeA8hIf9z0brxZEcKv_ |
| 職場のあんぜんサイト | 職場のあんぜんサイト | 厚生労働省 | https://anzeninfo.mhlw.go.jp/ |
■執筆者:影山順子
Webライター/編集者。建設コンサルタント会社にて、インフラの計画・設計・維持管理に関する業務に従事。必要な情報を整理し、現場の疑問や課題の解決に役立つ記事を執筆。