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注意すべき労働災害「熱中症」はなぜ発生する?現場で効果的な安全対策

注意すべき労働災害「熱中症」はなぜ発生する?現場で効果的な安全対策

安全教育|労働災害対策

2025年、職場における熱中症の死傷者数は1,803人と過去最多となり、企業の熱中症対策は待ったなしの課題です。2025年6月には改正労働安全衛生規則も施行されました。本記事では、労働災害としての熱中症が発生する仕組みと、法令に基づく対策、そして安全教育の実効性を高めるVR活用までを、一次情報をもとに解説します。

■ この記事のポイント

① 職場の熱中症死傷者数は10年で約4倍。製造業・建設業を中心に、7〜8月・日中・50歳代以上にリスクが集中していることを確定値データで把握できます。

② 2025年6月施行の改正労働安全衛生規則で事業者に義務付けられた「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」の要点を確認できます。

③ WBGT値を起点とした4つの対策の柱と、熱中症の安全教育を「記憶に残る」ものにするVR活用の考え方を、実務に落とし込めます。

1. 職場の死傷者数が急増。リスクの高い現場は?

まず、職場の熱中症の発生状況を厚生労働省の確定値データで確認します。数字を押さえることが、自社の現場でリスクの所在を見極める出発点になります。

● 職場における熱中症死傷者数は10年で約4倍に

厚生労働省「2025年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」によると、2025年の死傷者数(死亡+休業4日以上)は1,803人で、前年から約43%増加しました。10年前の2016年(462人)と比べるとおよそ4倍で、統計を取り始めた2005年以降で最多です。一方、死亡者数は19人で前年から約39%減少しました。

※出典:厚生労働省「2025 年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」

背景には記録的な猛暑があります。気象庁によると2025年夏(6〜8月)の平均気温偏差は+2.36℃と統計開始以来最高で、死傷者数増加の一因と推測されています。死亡者数の減少は、後述する2025年の労働安全衛生規則改正により重篤化防止対策が進んだことが一因と考えられています。

[表1]職場における熱中症による死傷者数の推移(2016〜2025年)

年死傷者数(人)うち死亡者数(人)
2016年46212
2017年54414
2018年1,17828
2019年82925
2020年95922
2021年56120
2022年82730
2023年1,10631
2024年1,25731
2025年1,80319

※ 死亡者数は死傷者数の内数。休業4日以上の業務上疾病者と死亡者を合わせて「死傷者数」としている。

出典:厚生労働省「2025年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」(労働者死傷病報告を集計)をもとに作成。

● 死傷・死亡者数が多い現場は

2021〜2025年の5年間の死傷者数5,554人を業種別にみると、製造業1,063人、建設業1,038人が突出し、この2業種で全体の約4割を占めます。死亡災害では建設業が最多(5年間で52人)、次いで警備業18人で、屋外作業が中心の業種ほど最悪の結果に至りやすい傾向です。とりわけ建設業の安全教育では、屋外特有のリスクを前提とした対策が欠かせません。

● 注意すべき月・時間帯、年齢は?

2025年の死傷者の約72%が7月・8月に集中し、9月に急減します。時間帯は午前中や午後3時前後が多いものの日中いずれの時間帯でも発生し、死亡災害は午後に多く見られます。気温が下がる夕方以降でも、帰宅後などに容体が悪化する事案があり、油断は禁物です。

※出典:厚生労働省「2025 年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」

年齢別では50歳代以上が死傷者の約52%を占め、死亡者では約84%(2025年)に達します。高齢者は体温調節機能が低下しているため、高年齢労働者が多い現場ほどきめ細かな配慮が求められます。

出典:厚生労働省「2025年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」。

2. 熱中症のメカニズムと危ない現場の特徴

発症の仕組みと重症度を押さえたうえで、現場の熱中症リスクを業種・作業環境ごとに整理します。自社の作業がどの類型に当てはまるかを確認しましょう。

● 熱中症とは

熱中症とは、高温多湿な環境などにより体温調節のバランスが崩れて生じる健康障害の総称です。環境省の資料によると、人体は通常、外気への熱放散と発汗によって体温を一定に保っています。しかし気温が高いと熱が逃げにくくなり、発汗で失われる水分・塩分が補われないと、体に熱がこもって熱中症に至ります。だからこそ適切な水分・塩分の補給が欠かせません。発症リスクは、高温多湿で風が弱い環境、高齢者や糖尿病などの持病がある人、長時間の屋外作業などが重なると高まります。

※出典:厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」

症状は重症度に応じて、Ⅰ度(軽症)=めまい・立ちくらみ・こむら返り、Ⅱ度(中等症)=頭痛・吐き気・倦怠感、Ⅲ度(重症)=意識障害・けいれん・高体温に分類されます。Ⅲ度は生命に関わる緊急事態であり、現場では初期症状を「いつもと違う」と早期に気づくことが重要です。

出典:厚生労働省「熱中症とは」「熱中症の症状と分類」、環境省「熱中症はどのようにして起こるのか」。

● 注意すべき現場の特徴

厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」は、危ない状況を屋外・屋内・その他の現場に分けて整理しています。代表的な特徴は次のとおりです。

建設現場(屋外)

  • 直射日光や地面・壁面からの照り返しを受け、風通しが悪いと熱がこもりやすい。
  • 重量物の運搬など作業強度が高く体内の発熱が多いうえ、休憩場所が遠かったり持ち場を離れにくかったりして、こまめな休憩・水分補給を取りづらい。

製造現場(屋内)

  • 炉や溶接などの熱源があり、屋内でも周囲が高温になりやすい。
  • 日射で建物自体が熱を吸収し、最上階などで室温が上昇しやすい。

その他の現場

  • 宅配・引っ越しなど、屋内外を移動しながら身体を激しく使う作業。
  • 冷蔵・冷凍倉庫との出入りによる急な温度差、通風の悪いビルメンテナンスや調理場、ビニールハウス・山林・畜舎など高温になりやすく人目が届きにくい環境。

出典:厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」(P13〜29「危ない状況と対策」屋外編/屋内編/その他の現場編)。

3. 企業の熱中症対策は「義務化」されている

2025年6月1日、改正労働安全衛生規則が施行され、一定の条件下で行う作業では熱中症への備えが事業者の「義務」となりました。まず自社の作業が対象に当たるかを確認しましょう。

● 対象となるのはどのような作業か

措置が義務付けられるのは、WBGT値28℃以上、または気温31℃以上の環境下で、継続1時間以上、または1日4時間を超えて行うことが見込まれる作業です。作業強度や着衣の状況によっては、この条件に該当しない場合でも、これに準じた対応が推奨されています。

● 事業者に義務付けられた「体制整備」「手順作成」「周知」

改正のねらいは、熱中症のおそれがある作業者を早期に見つけ、迅速かつ適切に対処して重篤化を防ぐ点にあります。労働安全衛生規則第612条の2に基づき、事業者には次の措置が求められます。

  • 体制の整備:熱中症の自覚症状がある作業者や、周囲が異常を認めた作業者が速やかに報告できる体制を整備し、関係作業者に周知する。
  • 手順の作成:作業からの離脱、身体の冷却、医療機関への搬送、緊急連絡などの実施手順を作成し、関係作業者に周知する。

この改正の背景には、深刻な実態があります。2020〜2023年の死亡災害を分析すると、そのほとんどが「初期症状の放置・対応の遅れ」によるもので、発見の遅れが78件、異常時の対応の不備が41件でした。熱中症は死亡に至る割合が他の災害の約5〜6倍とされ、死亡者の約7割は屋外作業で発生しています。だからこそ企業の熱中症対策では、「見つける・判断する・対処する」流れを現場の実態に即して定めておくことが重要です。

出典:厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」(令和7年6月1日施行 改正労働安全衛生規則、労働安全衛生規則第612条の2)。

4. 熱中症対策は「WBGT値」の把握から。企業が見直すべき対策

熱中症対策の出発点は、現場の暑熱環境を客観的な数値でとらえることです。厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱」では、①WBGT値の把握、②基準値を超える場合の4つの視点での対策、という流れが示されています。

● WBGT基準値(暑さ指数)の把握と活用

WBGT値(暑さ指数)とは、暑熱環境による人体への熱ストレスを評価する指標で、気温だけでなく湿度や輻射熱を反映します。日本産業規格(JIS Z 8504)を参考に作業現場で測定し、実測できない場合は環境省の熱中症予防情報サイト等で確認します。活用にあたっては、身体作業強度(代謝率レベル)に応じたWBGT基準値と実際のWBGT値を比べます。基準値は作業がきついほど、また暑さに慣れていない人ほど低く設定されます。

[表2]身体作業強度等に応じたWBGT基準値

区分身体作業強度(代謝率レベル)の例暑熱順化者(℃)非順化者(℃)
0 安静安静、楽な座位3332
1 低代謝率軽い手作業、書く・タイピング、腕や脚の作業 など3029
2 中程度代謝率くぎ打ち・盛土、腕と胴体の作業 など2826
3 高代謝率ショベル作業、ハンマー作業、重量物の運搬 など2623
4 極高代謝率激しくシャベルを使う、最大速度の激しい活動 など2520

※「暑熱順化者」は熱に慣れている人、「非順化者」は熱に慣れていない人を指す。

出典:厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」(職場における熱中症予防基本対策要綱 表1-1)。

WBGT値が基準値を超える場合は、冷房等でWBGT値を下げる、身体作業強度の低い作業に変更する、より低いWBGT値の作業場所に変更する、といった対応をとります。それでも超えるときは、次の4つの視点で予防対策を講じます。

● 基準値を超える場合は4つの視点で対策を行う

① 作業環境管理

  • 直射日光や照り返しを遮る簡易な屋根等でWBGT値を下げ、作業場所の近くに冷房を備えた休憩場所や日陰を設ける。

② 作業管理

  • 作業時間の短縮とこまめな休憩に加え、熱に慣れていない作業者には計画的な暑熱順化期間を設ける。
  • 自覚症状の有無にかかわらず水分・塩分を作業前後と作業中に定期的に摂取させ、透湿性・通気性の良い服装を着用させ、作業中の巡視で異変を早期に把握する。

③ 健康管理

  • 健康診断結果に基づく対応に加え、睡眠不足・体調不良・前日の飲酒・朝食の未摂取などは発症に影響するため、日常の健康管理と健康状態の確認を行う。

④ 労働衛生教育(安全教育)

  • 高温多湿作業場所で作業させる場合は、あらかじめ「熱中症の症状」「熱中症の予防方法」「緊急時の救急処置」「熱中症の事例」について教育する。

ただし、こうした知識は座学や動画による一方向の教育だけでは行動変容に結びつきにくく、現場では「わかっていても動けない」状況が起こりがちです。熱中症の安全教育を実効性のあるものにするには、危険を疑似体験し、自分事として捉えられる仕組みが有効です。近年はこの観点から、VR(仮想現実)を活用した安全教育が広がっています。

出典:厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」(職場における熱中症予防基本対策要綱 第2 熱中症予防対策)。

5. まとめ:VRを活用した熱中症対策を

熱中症の対策は、上記で解説した熱中症対策は4つの視点で進めますが、なかでも作業者の行動を変える最後の要が「安全教育」です。ただ、既存の座学や動画だけでは熱中症を「自分ごと」として捉えられにくいことが課題となっていました。そこでぜひ注目してもらいたいのが「VRによる熱中症に関する安全教育」の実施です。

例えば、明電システムソリューションは2026年6月に「明電VR安全体感教育」[1] のサブスクリプション方式の1つには特に熱中症対策の必要性が高い「足場撤去現場での熱中症」をリリースしました。同コンテンツでは足場撤去作業中に作業員が熱中症にかかって倒れてしまう事故を体感することが可能です。ほかにも安全トレーニングツールによる幅広い熱中症予防についても、VRとテキストの両方で学べます。より実用的・効果的な熱中症対策を実施するための手段としてぜひ明電システムソリューションのVRコンテンツ「足場撤去現場での熱中症」などの活用をご検討ください。


■ 参考・出典一覧

題名媒体名著者・運営元URL
2025年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)厚生労働省厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/
職場における熱中症対策の強化について(改正労働安全衛生規則)厚生労働省厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/
働く人の今すぐ使える熱中症ガイド厚生労働省厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/
熱中症とは/熱中症の症状と分類厚生労働省厚生労働省https://neccyusho.mhlw.go.jp/
熱中症はどのようにして起こるのか環境省環境省https://www.wbgt.env.go.jp/
The Effectiveness of Virtual Reality Soft Skills Training in the Enterprise(2020)PwCPwChttps://www.pwc.com/
明電の安全ソリューション/安全情報ポータル 製品紹介明電システムソリューション株式会社明電システムソリューション株式会社https://www.meidensha.co.jp/mss/

※ 各公的資料のURLは各機関のトップページを示す。統計・法令・ガイドラインの詳細は、各機関の公表資料を参照のこと。


■執筆者:成田亮

設備施工管理として10年以上の実務経験を持つ。空調・給排水・衛生設備工事を中心に現場管理に従事。施工管理技士としての知見を活かし、建設・設備・安全分野を中心に、一次情報に基づいたBtoB向けコンテンツを制作している。

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